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経済的な電子タイミングシリンダー注油器の開発

はじめに

近年、海上大気汚染防止法の発効により舶用機関の電子制御化が進み、新型2サイクル機関では排気弁カム軸が消えたことから、これまでの機械式シリンダータイミング注油器に代わる電子タイミング注油器またはSIP潤滑方式が採用されている。それと同時に、近年シリンダー潤滑の 添加剤高騰により、シリンダー潤滑油の減量化を目的としたシリンダー潤滑方式の変更・改良も目白押しである。
舶用4サイクル機関においても、潤滑目的だけでなく、燃料油に含まれるサルファーなどに起因するシリンダーライナーの腐食磨耗を防止する目的で、シリンダーライナーの側面からアルカリ価の高いシリンダー潤滑油を注油している場合がある。
従来の4サイクル機関のシリンダー注油では、一般的にピストン位置とは無関係にランダム注油をしている。従って、中和または潤滑に有効に使用されない潤滑油が多く存在し、そのことがシリンダー注油量の減量化を阻んでいる。タイミング注油によるシリンダー注油量の減量化は、ラン ニングコストの削減だけでなく、やがて規制対象となるPM排出量の削減にもいくらか寄与するものと思われる。
しかしながら、これまでに実用化されている電子タイミング注油器は、何れもシステムが大掛かりでイニシャルコストが嵩むために、出力のさほど大きくない(潤滑油消費量が多くない)4サイクル機関や小型2サイクル機関ではその採用が難しいのが実態である。

2サイクル機関で実用化されている電子タイミング注油

現在低速2サイクル機関で実用化されている電子タイミング注油には、B&W社のαシリンダー注油システムと三菱UEのECL注油システム、DUのパルスジェット注油システム、フォーゲル社のCLU4などあるが、何れも二重化された潤滑専用の油圧ポンプシステムを必要とするコモン レール式の注油システムであるが故に、出力の小さな機関ほど潤滑システムとしての油圧ポンプシステムの占める割合がスペース的にもコスト的にも大きく占め、大掛かりなものとなっている。また繊細な電磁弁を使用しているため、シリンダー潤滑油に混在する異物除去のフィルターリング も従来のようには行かない。

EDL電子タイミング注油

今回開発したEDL(Electro magnetic Direct Lubricator)タイミングシリンダー注油システムは、先に述べた電子タイミング注油システムに必要不可欠な油圧ポンプユニットを必要としない独立分散型注油システムである。更に可動部に繊細な要素を廃したことにより、従来の機械式タイミング注油器と同レベルのフィルターリングとヘッドタンクで使用できる。唯一コモンレールと言えば、各注油器への供給電源である。
この注油システムは、二重化された油圧ポンプユニットを使用したコモンレール式に比べ格段に低コスト・省エネである。そもそも油圧ポンプは仕事をなさない時にも、設定圧力で油を循環させている(仕事をしている)のに対して、EDLの場合、その駆動源は各々の注油器に内装されており、注油の一瞬だけ僅かな電力を消費して仕事をするため、エネルギー使用効率が極めて高い。
しかも、潤滑システム構築の際に必要な油圧システムの二重化に比べれば、電源の二重化はコスト的にもスペース的にも比較にならないほど少なく済む。まさに小型機関に適した潤滑システムである。

EDL注油システムの構成

EDL注油システムは、ヘッドタンク及びフィルター、各気筒に独立配置した複数のEDLポンプ、クランク軸の角度信号(またはクランク角度検出 器)、機関出力信号(または燃料調整棒位置検出器)、集中コントローラ(場合によっては二重化CPU)とEDL電源ユニット(場合によっては二重化電源)、設定表示パネルからなる。
シリンダー潤滑をEDLシステムのみで(他の注油システムと併用する場合を除いて)行なう場合、例えば1気筒当り4口の注油口がある場合、1気筒当り2台のEDLを用意し、各々のEDLから対向する2口の注油口に供給する構成が良い。この場合、何れか1台のポンプが故障しても残る1台のポンプでバックアップ出来るからである。同様に各センサーをはじめ電源回路や集中コントローラも二重化する必要がある。

EDL注油システムの構成
EDL 注油ポンプの構造
  • EDL注油ポンプは、従来の機械式と同様、定容積吐出型プランジャーポンプである。ポンプ 本体に吐出完了タイミングを知る上で必要となるプランジャー作動端位置センサーをはじ め、高速電磁駆動制御回路と保護回路・電源回路等が一体に組み込まれているため、集中コ ントローラからは、直流電源と僅かな点数の入出力信号をコネクター接続するだけで簡単に 制御が可能である。また、各ポンプとの通信にはハンドシェィク方式を採用しており確実に制 御や状態把握が出来る。
EDL 注油ポンプの構造
作動原理

EDL注油ポンプはコントローラから開始(ACT)信号を受けると、直ちにソレノイドコイルを励磁するが、電流はコイルインダクタンスで決まる時定数(指数関数)を持って増加するため、復帰バネ力を上回る吸引力に達するまでに若干の時間を要し、この間電磁プランジャーは見かけ上停止 したままとなる。
磁界の強さは電流に比例し、その吸引力は磁界の強さの二乗に比例する(隙間の二乗に反比例して吸引力が増す)ことから、一旦この釣り合いが逆転し電磁プランジャーが吸着側に動き始めると、加速度的に吸引力が増し給油口を閉じるまでに短時間で加速される。その時インダクタンス の急激な変化による電流減少という過渡現象も生じるが、電磁プランジャーは加速を続け吐出プランジャーを介して潤滑油を吐出しながら吸着面に接近する。
同時に電磁プランジャーが吸着面に着床する前から慣性力を有した油が吸着面のクッションポケット内に逆流入することから、油の粘性シール効果と相まって静かに着床する。
また、磁束密度が隙間の二乗に比例して増大することを利用して、磁束密度の上昇にて着床(0.5mm以下)を確認し、励磁電流を遮断すると同時にコントローラに完了(FIN)信号を出力し、コントローラの開始(ACT)信号がオフになるまで状態を保持する。何らかの原因で終端まで着床出来なかったり、復帰バネの損傷等でプランジャーが戻りきらなかった場合には、完了(FIN)信号の代わりに異常(ALM)信号を出力する。異常(ALM)信号の場合も同様コントローラが異常を認知し開始(ACT)信号をオフするまで状態を保持する。配線簡略化のため、EDLの電源は動力電源のみとなっているため、開始(ACT)信号出力後、50msec経過しても完了(FIN)信号または異常(ALM)信号の何れもがオンしない場合、コントローラ側にて電源(通信)異常とする。また、開始(ACT)信号をオフしても異常(ALM)信号がオフしない場合には、コントローラ側にて過熱異常と判断する。

作動原理
注油器仕様(4サイクル仕様)
供給電源 
300VDC2A(電源ユニット入力200VAC3φまたは1φ)
平均消費電力
4.5W(瞬時最大203W)
許容最大吐出頻度
180cpm
平均連続吐出頻度
80cpm
本体温度上昇
11℃
使用周囲環境温度
0~65℃
電気応答遅れ時間
17msec
機械動作時間
5msec最大(内吐出時間3msec最大)
完了出力応答時間
0.5msec以下
最小吐出圧力
10MPa
標準吐出油量
0.03cc
最小吐出油量
0.015cc
最大吐出油量
0.04cc
最大吐出口数
4max
油出口接続
RC1/8
電源・信号接続
WEB型ワンタッチ防水コネクター(DDK)
推奨接続ケーブル
(日立電線)RBT2-F(SB)-0.5SQ4P
吐出開始入力(ACT)
10mADC電流入力
吐出完了出力(FIN)
フォトカプラー絶縁Tr出力
吐出異常出力(ALM)
フォトカプラー絶縁Tr出力
電子タイミング制御と油量制御

電子タイミング注油も、基本的には機械式カムをそのまま電子カム(クランク軸角度)に置き換えればよい。通常機械式の場合、時間遅れは流体の遅れさえ見ていれば良かった。しかしながら例えばEDLの場合、機関が如何なる回転数のときも吐出時間は一定で短い為(2msec程度)、回転数が低ければ低いほど注油区間が狭まることに注意すべきである。注油区間に広がりを持たせるためには注油する度に指令カム位相を前後させて振り分ければよい。何れにしても、電子カムには特有の動作時間遅れ要素があるため、機械式カムのように固定では対応できない。
EDLタイミング注油に於ける油の流れは非定常流となり、油の粗密波(圧力波)として音速で末端まで伝播する。従って、ポンプ圧送後末端に吐出されるまでの伝播遅れ時間は、潤滑油の比重量、潤滑油の体積弾性係数、配管の径と肉厚・長さ及び配管材の体積弾性係数によって推定できるが、一般に数ミリ秒以下と短く、周囲環境等の変化は無視してよい。(圧肉鋼管の場合、圧力5MPa時の伝播速度は、60~20℃の温度範囲で凡そ1250~1370m/secの速さである。)
他方、EDL注油ポンプの応答時間は比較的長く、従って周囲温度の影響等によるドリフトも大きくなることから、注油開始指令を出力してから注油完了信号が戻ってくるまでの時間遅れを常時計測する必要がある。この直近に実測したポンプの応答遅れ時間に、予め計算により求めた配管長さによる遅れ時間を加えた時間が吐出遅れ時間(Td)である。
このように吐出遅れ時間が存在するため、運転中の機関において目標クランク角度で潤滑油を吐出するためには、進相角度(θ)(=クランク角速度(ω)×総合遅れ時間(Td))だけ早めに開始指令を出す必要がある。ところがエンジンの回転は一定でなく、一回転中でも角速度は微妙に変動している。従って、クランク角センサーの検出パルス周期から常にクランクの角速度を測定更新し、同時に指令角度を進相補正しておく必要がある。
当然、機関が逆回転する場合、目標角度も異なるし進相角度も正負逆になる。 また、EDLの場合ピンポイント高速注油であるため、特に低速運転時に第1~4(5)ピストンリングに万遍なく注油する場合、回転数に応じて注油範囲をカバーするよう注油ポイントを交互に変化させる制御を行なう。
一方、必要潤滑油量は一般に注油率(g/PS/h)で示されるように出力に依存して変化させる必要がある。それには、回転数だけでなく運転状況(燃料調整棒の位置若しくはアクセル信号)によっても注油率を可変する必要がある。ところが、EDL注油器は注油器全体の吐出量の一括手動調整は可能だが、基本的に定容積型のポンプである。従って注油率は1回/1回転~1回/10回転と言うように間欠運転により100~10%と注油率を変える。

EDL注油システムの解析

これまで、流体力学や電磁気学など理論的な裏付けを基にEDL注油ポンプの仕様決めを行い開発・設計に当たってきたが、最終目的はEDL注油システムによるピンポイント注油(短い時間で正確に注油すること)である。そのためには、実際に即した配管で注油棒の出口から切れの良い潤滑油の吐出の可否が全てであると言っても過言ではない。そのためには注油棒まで含めた解析が必要であると同時に、タイムラグを補償しようとする学習制御の有効性や、高速処理の有効性確認も必要である。

圧力伝播時間と吐出状態

下図は、1回1口当りの吐出量を0.025ccに設定したEDLポンプの出口から、鋼管(外径6mm内径2.8mm長さ3m)を用いて、注油棒入口(啓開圧0.6MPa)まで接続し、注油棒先端(ノズル径φ2)から、潤滑油(Mobilgard M430)を120回/分の頻度で噴出させたときの圧力波形である。このデータにはEDL出口付近の圧力と注油棒入口付近の圧力以外に、開始信号(ACT)及び完了信号(FIN)が記録されている。 この図の横軸は5msec/Divの升目で、縦軸の圧力は0.5MPa/Divだが、信号のレベルは特に意味が無い。この図では開始指令(ACT)オン後、約19msec経過してから一次側の圧力が上昇を開始し、その後2msecで圧力上昇が頂点に達し、直後から圧力下降に転じている。一方、一次側の圧力が頂点に達すると同時に完了信号が出力されていることがわかる。
二次側の圧力は一次側の圧力上昇から約2.3msec程遅れて上昇している。これは正に3mの管内を圧力が音速(1300m/sec)で伝わっていると言える。尚、二次側の圧力は一次側の圧力が上昇している間上昇し、上昇速度が緩やかになった頃から下降に転じ、吐出プランジャーが着床した頃には啓開圧付近まで圧力降下(この間約2.3msec)していることから、注油棒出口ノズルの開口面積が理想的であることを示しており、事実切れの良い吐出が行なわれている。

試験風景
吐出タイミングと吐出期間

下図は、実際の機関を模した評価装置の一つである。機関のクランク軸に相当する回転(電気駆動)軸上に、1度単位で区切られたオイルポットを全周に持つ円盤を取り付け、更にその軸上にクランク軸角度センサーに相当する回転エンコーダーを取り付けたものである。オイルポットのピッチ円周上に注油ノズルを固定し、目標角度で潤滑油を吐出した場合に、何度のバラツキで何度の区間内に注油されるかを観測する装置である。
この実験装置は、先に述べた学習制御方法により制御しているが、制御装置の時計能力の制限から250rpm回転時に最大1.5度のバラツキが 発生するため、1.5度以下のバラツキ評価は出来ない。(専用の制御装置を設計すれば0.5度以内の制御は可能)

測定評価装置
60rpm時の注油状態(吐出遅延時間2msec設定)
120rpm時の注油状態(吐出遅延時間2msec設定)
250rpm時の注油状態(吐出遅延時間2msec設定)

二次側圧力上昇時間2.3msecが吐出期間であると仮定すると、250rpmの回転速度では3.45度(2.3msec×1.5度/msec)となり、実測注油区間3度と近似していることから、切れの良い噴射に於ける吐出期間評価は二次圧力上昇時間から推察できることがわかる。
また、今回の実験で、学習制御によるタイミング注油がクランク軸1度以内の誤差で有効に機能すること、及び注油棒は複雑な燃料噴射弁構造をとらなくても、ノズルの最適設計により、一般的な鋼球による逆止弁でも3msec以内のかなり限定された期間内でのピンポイント注油が可能なことがわかる。

2サイクル機関への適用

EDL注油システムは、基本的に従来の機械式タイミング注油器と同じ機械構成である。そのため、従来の機械式タイミング注油器をそのままに新たに付加する場合、現行のヘッドタンクも使用できるし新たな油圧ポンプユニットの設置が不要なため、改造が容易で費用も少なく済む。これまで大型機関のα注油システムへの改造は多く実施されてきたが、小型機関の場合、コスト削減効果が少ないにも拘らず大型並みの初期費用が必要であるため未だに実施されていない。そこで、これまで改造されていない35以下の機関を対象にしたEDL注油ポンプを開発中である。
レトロフィットの場合、元々ある機械式タイミング注油器をバックアップ用として残しておけば、EDL注油システムの二重化は不要となり、更にコストダウンが可能になる。

おわりに

近年、国内舶用エンジンメーカは、自社エンジンに関する独自の潤滑システムを開発し展開しているが、世界で圧倒的シェアを誇るB&W型2サイクルエンジンに関してはライセンシー契約による制約も有り、オリジナルの高価なαシステムを採用せざるを得ないのが実態であろう。しかし今後、国内外のレトロフィット船でEDLの実績を積み重ねていけば、B&W社も小型エンジンのシリンダー注油システムについては、圧倒的にコストパーフォーマンスの高いEDL注油システムを追認せざるを得なくなる可能性はある。一方、大型建造船の多くが中国、韓国に流れている中にあって、国内では中小型船の建造が盛んである。そのことは、国内に多くのEDL需要があるわけで、国産のEDLにて我国造船業の差別化の一助となれることを期待したい。

2007/3